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リーダーズ・ジャーナル

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2026年02月20日

「苦しみも痛みも、希望に変えて。あなたと共に歩むために」#005外科学講座 上部消化管外科    教授 矢野 文章

「食べる力と命を大切に守り抜く医療を、心を込めて届けたい」と話す矢野医師

食道の良性疾患、食道・胃の悪性疾患、高度肥満症まで。私たちは、あなたの不安や苦しみに寄り添い、各分野の専門医が力を合わせて、最先端の知見と磨き抜かれた技術で、一人ひとりに寄り添った最善の治療をお届けしています。
私はこれまで、食道・胃などの「上部消化管外科」を専門に、がん(悪性疾患)の手術だけでなく、日常生活を大きく妨げる良性疾患の手術にも数多く携わってきました。食べること、飲み込むことは毎日の生活の基本です。その大切な機能を守り、症状の改善を通じて患者さんが安心して暮らせるよう、診断から手術、術後のフォローまで丁寧に行っています。

食べることに直結する臓器を扱う、全身を見据えた包括的医療

子どもの時の夢は旅客機のパイロット、視力の悪化と共に必然的に外科の道へ

私たち上部消化管外科は、食道や胃といった「食べること」に直結する大切な臓器を専門に診療しています。これらに病気が起こると「食べたいのに食べられない」「食べると苦しい」といった症状が生じ、命だけでなく生活の質にも大きな影響を与えます。私たちの役割は、病気を治すとともに、患者さんが再び安心して食べられるようにすることです。

悪性腫瘍としては、食道がんや胃がんがあります。進行すると食べ物が通らなくなったり、強い痛みやつかえ感を伴うことがあります。手術は命を救う治療であると同時に、食事の経路を再建し、再び食べられる状態に戻す大切な手段でもあります。

一方で良性疾患でも深刻な「食べられない」症状が起こります。たとえば食道アカラシアでは、食道の蠕動運動が障害され、飲み込んだ食べ物が胃へと運ばれにくくなります。また、大きな食道裂孔ヘルニアでは、胃の一部が胸の中に入り込み、解剖学的な異常によって食事が十分に取れません。さらに胃食道逆流症では、強い逆流による胸やけや痛みで食事を避けるようになり、次第に「食べられない」状態に陥ることもあります。これらはいずれも手術で改善でき、患者さんが再び普通の食事を楽しめるようになることを目指します。

高校まではテニス、大学では15人の仲間で挑むラグビー部に在籍

さらに近年注目されているのが、減量・代謝改善手術です。これは単に体重を減らすだけでなく、糖尿病や高血圧、脂質異常症といった生活習慣病の改善に効果があることが知られています。外科的に胃の形や働きを調整することで、身体の代謝そのものが変化し、薬に頼らず血糖値や血圧が安定する場合もあります。生活習慣病の治療が難しいと感じている患者さんにとって、新しい選択肢となり得る手術です。

このように、上部消化管外科では、がんのような命にかかわる病気から、食べる喜びを奪う良性疾患、さらに生活習慣病に至るまで幅広く対応しています。私たちは、単に病気を取り除くだけではなく、患者さんが「食べる」「生きる」という日常を取り戻し、笑顔で暮らせることを目標にしています。これからも培われてきた技術を大切にしながら、新しい知見や手術方法を取り入れ、一人ひとりに最適な医療を届けてまいります。

進化を続ける手術で、あなたに最適な治療を

「上部消化管外科術前カンファレンス」に参加する矢野医師ら

私たちの診療は、決して現状に満足するものではありません。上部消化管外科の分野には、まだ「これが最善」と言い切れる標準的な術式が確立されていない領域が多く残されています。そのため私たちは、一人でも多くの患者さんが安心して治療を受けられるよう、新しい術式の開発や既存の方法の改良に挑み続けています。

近年、特に増加しているのが食道胃接合部がんです。食道と胃の境目に発生するこのがんは独自の性質を持ち、切除範囲や再建の仕方にはさまざまな考え方があり、いまだ世界的にも統一された答えは出ていません。私たちは患者さんの体格や病状を丁寧に評価し、最も適した方法を選択しながら、より良い治療法を探求しています。

また、減量・代謝改善手術においても課題は残されています。欧米で広く普及する術式が複数ありますが、日本人は体格や食習慣が異なるため、そのまま取り入れることはできません。胃の形や働きを変化させ代謝を改善するこの手術は、薬に頼らず生活習慣病を改善できる可能性を持っています。私たちは、日本の患者さんに合った方法を検討し、長期的に安全で効果的な治療を実現できるよう努めています。

食道運動機能については、米国ネブラスカ州にあるクレイトン大学在籍中に多くを学んだ

さらに、胃が胸の中に入り込む食道裂孔ヘルニアの手術では、術後の再発防止が大きな課題です。症状は改善しても時間が経つと再発し生活の質に影響を与えることがあります。そのため、体内に異物となる補強材を入れず、縫合を工夫して再発を防ぐ新しい方法を積極的に取り入れています。

食道アカラシアの手術にも課題はあります。飲み込んだ食べ物が通りにくくなるこの病気では、食道が大きく曲がることがあり、単に狭い部分を広げるだけでは不十分です。そこで私たちは、屈曲した食道を直線に近づける独自の術式を模索し、より自然に食事がとれる状態を取り戻せるよう努めています。

このように、上部消化管外科の手術は常に進化を続けています。私たちは確立された方法を安全に行うだけでなく、未来を見据えて新しい術式を考案・改良し、患者さん一人ひとりに最適な医療を届けたいと願っています。そして「食べる」という人間にとって最も大切な営みを守り続けることが、私たちの使命です。

「世界の舞台に駆け上がる上部消化管外科」目指して

2024年にカイロで開催された国際カンファレンスでの矢野医師

私たち上部消化管外科は、日本国内だけでなく、世界の医療とも歩調を合わせながら発展を続けています。食道や胃の病気は国や地域によって特徴が異なり、治療の考え方もさまざまです。そのため、世界中の医療者と協力し合い、互いに学び合うことがとても大切です。私たちは自分たちの技術や経験を積極的に発信し、同時に海外の優れた知識や新しい手術方法を柔軟に取り入れることで、常に進化する医療を患者さんに届けています。

これまでに多くの患者さんを治療してきた経験から得られた成果を、国際学会や医学誌を通じて発表し、世界中の医師たちと意見を交わしてきました。その中で得られる気づきや学びは、私たちが日々の診療で患者さんに提供する医療の質をより高めるものとなっています。世界とつながりながら医療を磨くことで、患者さんにとって安心で確かな治療が実現できると考えています。

2010年に鹿児島で開催された国際食道疾患会議での一コマ

また今後は、海外から治療を希望して日本を訪れる患者さんを積極的に受け入れていくことも視野に入れています。日本の医療は高い安全性と技術力で評価されており、世界から注目されています。私たちは言葉や文化の違いにも配慮しながら、海外から来られる患者さんにも安心して治療を受けていただける体制を整えていきます。国境を越えて患者さんを迎えることは、私たちにとって挑戦であると同時に、日本の医療の素晴らしさを世界に伝える大きな機会でもあります。さらに海外から患者さんを受け入れることは、国内の医療の発展にもつながり、日本の患者さんにとっても大きな利益となると考えています。

「世界の舞台に駆け上がる」という言葉には、ただ海外に進出するという意味だけでなく、世界と手を取り合ってより良い医療を築いていく決意が込められています。日本から世界へ、そして世界から日本へ。双方向の交流を大切にしながら、より多くの患者さんに最適な治療を届けたいと願っています。私たちはこれからも進化を続け、未来に向けて信頼される医療を提供してまいります。

ひと言解説

患者さん自身の弁を温存する「大動脈弁形成術」

私たち上部消化管外科は、「食べること」に深く関わる食道や胃の病気を中心に診療しています。食道がんや胃がんなどの悪性疾患はもちろん、食道アカラシアや逆流性食道炎、大きな食道裂孔ヘルニアなどの良性疾患にも幅広く対応しています。さらに、糖尿病など生活習慣病の改善につながる減量・代謝改善手術にも力を入れており、保険診療に加えて自費診療の選択肢もご用意し、患者さんにとって最も良い治療を一緒に考えています。
治療では「安全でしっかり治すこと」を大切にしながらも、体への負担をできるだけ減らし、術後の生活が快適であるよう工夫を重ねています。
「命を守ること」と「食べる力を守ること」。この二つを柱に、最新の知見を取り入れながら、患者さんが安心して食卓を囲み、笑顔で日常を過ごせるよう、私たちは全力でサポートいたします。

そして、私たちのモットーは――
「命を守る最良のアート、それが私たちの進化する医療です。」

外科学講座 上部消化管外科

教授 矢野 文章

1994年東京慈恵会医科大学卒業。初期研修終了後、外科レジデント1期生として外科学講座入局。その後は逆流性食道炎モデルによる基礎研究に従事。2006年からは米国Creighton University Medical Centerに留学し、食道運動機能に関する研究に取り組む。現在、胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン改定第4版作成委員会委員である。
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