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リーダーズ・ジャーナル

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2021年11月17日

毎日、患者さんと心を交わし「何かおかしい」を感じ取り、研究へ そして最先端医療へ #003整形外科   教授 斎藤充

 幼児から高齢者まで、あらゆる年齢層のさまざまな整形外科疾患に適した治療を行うため、膝関節、股関節、肩関節、手の外科、足の外科など10の専門的な外来・外科的治療チームを開設しています。人生100年時代といわれますが、今の痛みをとるだけでなく、その先の人生を常に考え100歳まで元気に歩ける「健康寿命100年」を目指して診療にあたっています。慈恵医大の整形外科は、1922年、日本の大学病院では5番目、私立大学として初めて整形外科を開設しました。2022年には100周年を迎えます。

日々、患者さんと心を交わし「失った動きを取り戻す」

「カナダ・トロント大学病院で最先端の医療を学んだ」

 私共は代々、患者さん本位の診療を行うことをモットーとし、優れた知識と医療技術をあわせもった医師の育成に情熱を注いできました。
 人は生涯、全身を動かすことで、人と出会い、世界を知り、自分を育み、心を表現します。それは赤ちゃんもアスリートでも、80歳、90歳の高齢者でも同じです。 人は「動き」が痛みや変形で失われた時、当たり前の日常や自由を失い、同時に「心」を失います。「もう諦めよう」「歳だからしょうがいない」、そんな言葉は捨てましょう。 失われた動きを薬や注射、リハビリテーションといった保存療法、そして手術療法により取り戻すのが整形外科医です。そして自分を取り戻した喜びを感じてください。 大切なことは、神の手と言われる医師が手術したとしても、それだけでは人生の幸せは取り戻せません。痛みが取れさえすれば動けるか?それは違います。手術直後「動き」は確かに改善します。 しかし、そこから「イキイキとした動き」を取り戻すためには、患者さんから心と足腰の訴えを聞き、日々の変化を感じ取り、患者さん毎にきめ細やかな運動指導をすることが必要です。 「機能を元通りにする」ためには、運動を司る筋肉や腱、靱帯、骨や関節の日々の息吹を感じ取り、その要求に応じた診療を行う事が大切です。 私共の整形外科には、「手術は成功しました。リハビリは近所でしてください」 という医師はいません。 大学病院には他院では対応できない治療の難しい患者さんや、手術が出来ないと考えられるような内科合併症をもつ患者さんが集まります。 その全てに当たり前のように対応し、動きと心を取り戻すのが私共のモットーです。いわば最後の砦です。

 私共は100年の歴史の中で、担当の医師、それを支える看護師、リハビリテーション科のスタッフが、個々の患者さんの心と身体の日々の変化をとらえ、チームとなり治療することの重要性をいち早く実践してきました。 その結果、来院される患者さんは、医師からの紹介のみならず、当科で治療された患者さん自身が、その家族、友人、知人さんが多数を占めることも特徴です。 北は北海道から南は沖縄、伊豆七島にいたるまで、多くの患者さんが受診し外来、入院治療を受けています。 退院をいたずらに早めること無く、ご家族が安心できる「動き」を取り戻すまで、しっかり入院治療を継続するのも特徴です。

最後の砦として難治症例でも安心と安全の医療を

「膝の人工関節手術を行う斎藤医師」

 私共、附属病院(本院)の整形外科の手術件数は、コロナ禍以前は年間1,400件、現在も1,000件は越えており、大学病院として有数の実績を有しています。 私自身、年間80〜120件の人工膝関節置換術を行っています。また、膝チームとしてもアスリートの靱帯損傷や半月板損傷、複雑な関節骨折など年間300件近い手術を行っています。 特筆すべきは、他の施設では敬遠されるような90歳以上の高齢の方や、透析、閉塞性肺疾患などの内科疾患を抱えた方も、元気な方に手術するのと同じように受け入れ対応しているところであります。 高齢化社会となり、膝関節の軟骨がすり減り痛みと変形が生じる変形性膝関節症の患者さんは日本に2,400万人もいると言われています。その特徴として「両膝が同時に痛む」方が多いのです。 そこで、どんな内科的な合併症がある方でも、両方の膝を1回の手術で終わらせる「両側同日人工膝関節置換術」の手術手技の改良、独自の止血対策により毎週のように行っています。 私自身で年間40〜50人の方を両膝同時に手術しています。手術時間は、両膝2時間半程度、片膝1時間強で終了します。短時間で手術を終えることができるので、例え内科合併症が酷い方でも手術が可能なのです。さらに、一般的に他の施設では術後の貧血に備えて行われる自分の血液を手術前にあらかじめ貯めておく自己血をとることも致しません。 これは独自の対策で術中、術後の出血を少なくできるノウハウがあるからです。 私が行った手術患者さんで輸血をした方は、まだ一人もいません。

 このように身体への負担も少ないため、皆さん、術後3週前後で階段昇降も自立安定し、一人暮らしの高齢者の方でも自宅退院されます。 さらに手術後に継続して骨粗鬆症の治療もあわせて行うことで、人工関節が人生100年まで再手術をすることなく経過するための試みを行っています。 後述しますが、当科の骨粗鬆症の研究は世界をリードし、慈恵医大整形外科発の研究成果が世界の常識を変え、診療のガイドラインも塗り替えた実績をいかし、生涯にわたり外来で骨と人工関節のケアを行っています。 担当した患者さんにとって、病院の職位などは意味がないことです。担当医としてその患者さんの人生を担当した以上、生涯にわたり責任をもち、心を交わすことは当たり前と思っています。

どんなに職位が高くなっても、担当患者さんにとって単なる主治医でしかない

 医療の分野では、エビデンスに基づく治療を行うことが当たり前になっています。 しかし、エビデンスは身体の神秘の全てを解き明かしているわけではありませんし、後々、覆されることも多数あります。 新しいエビデンスの芽は、患者さんが授けてくれます。日々、患者さんを診ていると、これまでの常識やエビデンスでは説明できないことや、エビデンスをまとめた診療ガイドライン通りにはいかない患者さんに出会います。 「何かおかしい」という感覚は、日々患者さんを丁寧に診ている医師にしか授けられません。私のモットーは「何かおかしいは絶対におかしい、一度立ち止まって熟考せよ」です。 これは外来診療でも、手術中でも同じです。 その「何かおかしい」ことは新しい発見の芽になることを経験してきました。 これまで骨折しやすくなる病気である骨粗鬆症は、骨密度=カルシウムだけが重視されてきました。 しかし、日々患者さんを診ていると「骨密度が正常なのに骨折を起こす方が後を絶たない」ことに気が付きます。 「何かおかしい」、その気持ちが拭いきれず、私が大学院時代から継続して行ってきた基礎研究を患者さん診療の合間に継続し、世界で初めてその機序を解明しました。 この新たな発見は世界から多数の後追い研究を受け1,500近い研究論文で引用され妥当性が検証されました。 すでに私自身、骨粗鬆症の診療ガイドライン作成にかかわり、慈恵医大整形外科発の世界初の概念を、診療現場に普及させました。 テレビ番組の「夢の扉」でも特集され全国から難治性の骨粗鬆症患者さんが来院されました。 エビデンス通りの治療を全ての患者さんにすれば良いのなら、医師免許がなくてもガイドラインを読める人なら治療を決定することができます。 しかし、私はこう考えています。「医師として誇りをもてるのは何故か? それは、最新のエビデンスを熟知した上で、自らの医療知識と最先端の医療技術、手術手技をもって、目の前の患者さんの人生を晴れやかにする役割の一端を担えることに他ならない」 そして、今の痛みをとるだけでなく、その先の人生を常に考えて治療にあたっていく姿勢は変えることはありません。

 今でも研究や学外活動もあり多忙ですが、私が手術をした入院中の患者さんは平日はもとより土日や祝日も、朝6時半から一人一人、診察回診を行い、患者さんが安心して治療に専念できるようにしています。 勿論、教授だからといって朝から誰かを引き連れて回診することはありません。 医師はどのような職位にあろうが、患者さんにとっては「一人の私の先生」に過ぎないので、毎朝のお喋りと診察が楽しみでしかたありません。 同時に大学病院の整形外科学教室の責任者として、その歴史や伝統にしがみついていても医学の進歩に貢献できません。 また、整形外科学教室の発展もありません。教室のメンバーの一人一人の長所を育み、5年後、10年後を見据えた教育・臨床・研究を行うことが第7代の主任教授である私に託された使命でもあります。 そして、日々の積み重ねこそが「自分の目の前の患者さんだけではなく、世界の医師の前に座る患者さんをも救う研究や診療を築き上げる『変革』へとつながる」と信じて、これからも診療、研究を継続していきたいと思います。

ひと言解説

 人生100年時代に突入した今、平均寿命より約10年短いとされる健康寿命をいかに保つかが課題となってます。「健康寿命の延伸は私たちの使命です。患者さんには、生命の灯火が消えるまで痛みのない体で過ごしてもらいたい」と考えています。高齢者に多い変形関節症には、膝および股関節チームが侵襲の少ない関節鏡手術を実施。変形が進行した場合の人工関節置換術の症例は膝・股関節ともに全国の大学病院の中でもトップレベルの手術件数を行っています。特に、80歳、90歳の方でも両方の関節を同時に行う人工関節置換術は、輸血関連は一切行わずに短時間で終えます。歩行への意欲があれば、内科の持病があっても、90歳以上でも積極的に手術を行います。背骨の疾患は、最新鋭のハイブリッド手術室を備えた脊椎・脊髄センターで専門の医師が担当しています。「今の痛みをとるだけでなく、その先の人生を常に考えて治療にあたっています。年だから仕方ないと諦めないで、いつまでも生き生きと楽しい人生を送りましょう」

整形外科

教授 斎藤充

中学高校時代はサッカーで全国大会出場、国体の代表選手として活躍。スポーツ選手の痛みをとり現場に戻し、一人でも寝たきりの高齢者をつくらずに笑顔に満ちた時間を過ごせるための医療を実現するとの思いで整形外科学医を志す。全国でも有数の症例数を誇る人工関節の手術を担当するとともに、世界で初めて骨粗鬆症の新たな診断法や治療法を確立した研究者でもある。
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