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2018年10月30日
臨床医であり、腎臓再生に挑む研究医でもある横尾隆医師
慈恵大学病院(The Jikei University Hospital)の医療を牽引する医師たちの、これまでの軌跡をたどる「リーダーズ・ジャーナル」。2017年11月、腎臓・高血圧内科の横尾医師率いるチームが、長らく不可能だといわれてきた腎臓再生の臨床への応用が実現間近だと発表しました。幹細胞を利用し、体の機能を回復させる「再生医療」を研究して20余年。横尾医師がここまで走り続けることができた理由とは、一体何なのでしょう。
患者さんと向き合えばこそ、
「治療に結びつく研究」に焦点を当ててきました
患者さんの人生に一生寄り添っていく。それが、内科医である私のスタンスです。私は研修医時代から、腎臓病の患者さんと接する機会が多かった。そこで感じたのは、腎臓病には「死の病」のイメージがないことでした。ですが、患者さんは日々、真綿で首を締められるような苦しみを味わっています。腎臓病の患者数は、全国に30万人以上。人口あたりの患者数は世界一です。私はこの現状を、どうしても見過ごせなかった。
腎臓病患者さんの90%以上が、体外に血液を取り出し、透析器を経由して浄化後に体内に戻す「血液透析」という治療を受けています。透析は週に3日、1回4時間ほどかけて行います。本来24時間動いている腎臓の機能を短時間に凝縮して代行するので、体に負担のかかる治療です。
学生時代、ヨット部の主将を務めた横尾医師。
「体力と忍耐力だけは自信があるね」
透析を始めると、汗をかきづらく、尿もほとんど出なくなる。余分な水分を排出できないので、水分摂取は控えなければなりません。でも、健康な人と同じように喉は渇くわけです。しかも、その渇きは一生続いていく。過酷ですよね。透析の負担に加えて、心臓の病気を患ったり、糖尿病や高血圧が絡むことで動脈硬化が進み、足先が壊死してしまう患者さんも多い。さらに、周囲の理解や協力を得られずに、職場や家庭から孤立してしまうこともある。
このように、腎臓病はすぐに死と直面する病ではないけれど、長い時間をかけて、じわじわと追い詰められていく病気です。だからこそ、患者さんが元気になられて、自立したり社会復帰できたりすると、体の底から喜びが湧き上がりますね。
患者さんのそばにいる限り、
内科医として歩むべき道を見誤ることはないのだそう
うちは代々医師の家系で、小さいころは開業医だった祖父の往診について回ったりしていました。医師というのは特殊な職業です。普通の商売ならこちらがお客さまにお礼をいうものだけど、医師は患者さんから「ありがとう」といわれるんですね。行く先々で祖父が人から感謝される姿を見て、私も自然と医師に憧れるようになりました。
そのころ、忘れられない経験をしました。毎日のように通っていたあるお宅で、患者さんの病気が日に日に悪化していった。衰弱した横顔を眺めながら、私は「特効薬を出して早く治してあげればいいのに」なんて思っていました。その方が、亡くなる数日前に祖父にいったんです。「ドクター、ありがとうございました」と。自分は死んでいくのに、なぜ祖父に感謝するんだろう。子ども心に不思議でした。
実は、目立ちたがり屋。
「いつの日か、満員の聴衆の前で研究発表したい」
医師になった今は、こう思います。その方は、祖父が自分の人生に寄り添ってくれたことに感謝したのだと。内科医の真髄は「いかに生かすか」ではなく、「いかに寄り添うか」。人は誰しも死を迎える。それまでの間、痛みを軽減したり、ご家族といい関係の中で見送って差し上げたりすることも、医師の大切な仕事です。医療は人対人のものであり、人対病気ではない。それはまさに、慈恵大学病院(The Jikei University Hospital)の理念「病気を診ずして 病人を診よ」につながりますし、医師が根底に持っているべき本質だと思いますね。
人の人生に寄り添う内科医にとって、患者さんは道しるべです。だから私は、研究においても患者さんに直接役に立つ領域に取り組みたいと考えてきました。医師の世界には現場で治療を行う臨床医と、病態解析を行う研究医がいますが、研究医が担うのは人体の謎を解き明かす「科学」の領域です。私には、研究医として権威ある学術誌に論文が載ることより、治療法を確立して、1日でも早く患者さんに届けることの方が重要だった。それはこの20年間、ずっと変わりませんね。
「20年前に戻って同じ道を歩めるかと聞かれたら、多分できないですね」
腎臓はとても複雑な構造をしていることから、「神の領域」と呼ばれています。誰もが再生など不可能だと考えてきたし、私が研究を始めた当時は「再生医療」という言葉さえありませんでした。ただ、根拠は何もなかったけれど、「腎臓再生は絶対にできる」と100%信じていました。だって人間は、こんな複雑な臓器を生まれながら2つも持っているんです。腎臓を作る能力が私たち自身にもともと備わっているのなら、再生だってできないわけがない。
自信はあったものの、実際の研究では壁にぶつかってばかりでした。でも、困難な時ほど必ず誰かが助けてくれるんですよ。段階が進むごとに思わぬ出会いに恵まれて、さまざまな分野の専門家が力を貸してくれました。期せずして時流がこちらを向いた、というのもあります。医学には時代によってトレンドがあり、注目度が高いテーマほど、人材や研究資金が集まりやすい。再生医療が注目された時、「幹細胞を用いた臓器の再生」に挑んでいた私は、気がついたら時代の中心に立っていました。私はそこに、自分の意志を超えた、何か大きな力の後押しを感じたんですね。同時に強く意識したのは、患者さんの存在です。これまで私が見送ってきた数え切れないほどの患者さんたちが、「最後まで走り続けて」と背中を押してくれるのをひしひしと感じるんです。それこそが、私の原動力になっています。
これまで突き動かされるように走ってきた研究が、まもなく結実します
今、透析治療を受けている皆さんに伝えたい。この治療が一生続くのかと思うと、やり切れなかったり、投げやりな気持ちになってしまうこともあると思います。それはすごくわかる。遠くに光が見えないと、歩く足にも力が入りません。20年間進めてきた腎臓の再生医療は、ようやく臨床応用の最終段階に入りました。必ずこのトンネルに出口を作ります。だから、私を信じて、どうか今をがんばってほしい。一緒にその日を、最良の状態で迎えましょう。
※2018年10月時点の情報です。
「僕は楽観主義なので、腎臓再生は必ずできると信じて疑わなかった」
動物の体内を「借りる」ことで、腎臓再生を実現
横尾医師率いるチームが確立した腎臓再生には、3つのステップがあります。
動物の胎児の体内で行われる腎臓創生プログラムと、前駆細胞が腎臓に育つための場所を「借りる」ことで、腎臓の再生が可能になります。10年以内の臨床応用をめざして、現在、研究は最終段階に入りました。
腎臓・高血圧内科
教授 横尾 隆
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