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未来の医療をきりひらけ!

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2018年10月29日

磁気刺激でうつ病を治す。「rTMS」がもたらす未来 #001 精神神経科   准教授 鬼頭 伸輔

15年間、rTMSを研究している鬼頭医師。日本におけるこの治療法の第一人者です

慈恵大学病院の医師が、最新の研究成果や医療の進化を解説する「未来の医療をきりひらけ!」。今回ご紹介するのは、磁気刺激を用いたうつ病の新たな治療法「rTMS(反復経頭蓋磁気刺激)」です。
2017年9月、初めて精神科の医療機器として厚生労働省より薬事承認されました。rTMSの臨床研究を180例以上手がけてきた鬼頭医師に、rTMSによってうつ病治療がどのように変わるのかを伺います。

脳に磁気刺激を与えると、うつ病が治る?

近年は高齢のうつ病患者さんも多く、
副作用の少ないrTMSに期待が高まります

厚生労働省の調査によると、日本のうつ病患者数は2005年で約92万人、現在は約100万人と増加傾向にあります。ストレス社会において、うつ病は誰がなってもおかしくない、とても身近な疾患になりました。

うつ病の治療では、第一に「休養」と「環境調整」。働き過ぎや出産・就職などの環境の変化がきっかけで発症することが多いため、まずは仕事の量を調整する、しっかり休息するなど、心と体を落ち着かせることが大切です。症状が中等症以上になるとそれだけでは回復しづらいため、抗うつ剤を用いた薬物療法を実施します。症状がおさまって回復した状態を「寛解(かんかい)」といいますが、約33%の人が薬物療法を経ても、なお寛解できないのが現状です。

長年の臨床研究を経て、ようやく日本での保険収載が見えてきました

私が研究している「rTMS(反復経頭蓋磁気刺激)」は、そんな薬が効かなかった患者さんたちにも効果が期待できる、うつ病の新しい治療法です。専用の医療機器を用いて脳に磁気刺激を与え、その部分の機能的な異常を治すことで、うつ病の症状を緩和します。薬物療法に比べて副作用が少ないうえ、事前の処置や準備が必要ないので、外来でも治療が受けられます。

うつ病になると、それまで楽しめていたことに興味が持てなくなる、悲観的な考えにとらわれる、作業の能率が下がるといった症状が出てきます。このとき、脳内はバランスが崩れた状態にあります。思考や判断力に関わる「背外側前頭前野」の機能が低下する一方、感情を司る「扁桃体」は過剰に活動しています。こうした偏りを磁気刺激によって正常な状態に戻そう、というのがrTMS療法の考え方。脳内のバランスを取り戻すのに、狙った部位に直接電気的な刺激を与える点が画期的です。

「数年ぶりに気分が晴れた」。rTMSで患者さんの行動に変化が

10ヘルツの磁気刺激が4秒間、26秒間おきに脳に加えられます

実際の治療では、患者さんの頭部に専用の機器をあててもらいます。最初に、刺激する強さや位置を患者さんごとに調整します。それから、コイルに電流を流して磁場を発生させ、それによって生じる誘導電流で脳を刺激するのです(※)。
rTMSは薬物療法に比べると副作用が少ないといいましたが、最初のうちは刺激部位に「叩かれるような痛み」を感じたり、頭痛や不快感を伴うことがあります。ですが、「痛い」といっても治療を続けられないほどでないので安心してください。特に痛みを感じるのは最初だけで、治療を重ねるごとに体が慣れて痛みは軽減されていきます。慣れると治療中に本を読んだり、居眠りしたりする人が出てくるほどです。

治療時間は標準的なもので1回約37分。それを週5日、4〜6週間ほど実施します。治療開始から通常は2〜4週間、早ければ1〜2週間ほどで効果を実感する人が多いようです。うつ病が回復してくると、本人の実感だけでなく、周囲から見ても明らかに様子が変わっていくのがわかります。例えば、予約の電話では口数が少なかったのに、治療後は表情も明るくなり、受付で世間話をしていく患者さんがいます。元気になると、自然と誰かと話したい気分になるんですね。ある患者さんは、「昨日、治療の帰りに図書館に立ち寄りました。そんなことは数年ぶりです」と驚いていました。適切な治療を受け、気分が晴れやかになれば、行動する気力が湧いてくるのです。

鬼頭医師の元には、rTMS療法を希望する患者さんが多く訪れるそう

ほかにも、本の内容が理解できる、集中してパソコン作業が行えるなど、「治療前はできなかったこと」ができるようになったという報告を数多く受けています。たくさんのうつ病患者さんを診てきましたが、共通しているのは、rTMS療法を受けることで頭の中をおおっている「膜」がはがれるような感覚があること。それにより、見たもの、感じたものが鮮明に頭に入ってきます。治療が終わった3カ月後でも、およそ6割の人がこの回復状態を維持できていることから、治療効果の持続が期待できます。

※注:磁場の影響が出てしまうため、刺激部位の近くに「金属」がある方は治療ができません。

rTMSの進化で、うつ病治療はこう変わる

標準的な治療法が確立するまで、数多くの刺激条件が試されました

私がrTMSの研究を始めたのは、今からおよそ15年前。きっかけは、精神疾患の治療法である「電気けいれん療法」の本の最後に、「今後は磁気刺激が新しい治療法になるかもしれない」と書かれていたことでした。電気けいれん療法が脳全体をけいれんさせるのに対し、磁気刺激を用いた方法ならけいれんを起こさずに狙った部位だけを刺激できます。とはいえ、当時はまだ懐疑的でした。研究もあまり進んでおらず、治療法としての効果も十分ではなかった。ただ、新たな治療の可能性に興味を引かれたんですね。

それから7年ほどは、具体的にrTMSが脳のどの部分に、どのような影響を与えるのか、さまざまな刺激条件の下で患者さんの状態を調べていきました。治療の前後で脳の血流を調べると、確かにrTMSによって脳の活動性が変化している。こうした研究データと医療機器の技術革新もあって、2011年ごろからいよいよ本格的に治療法として国内に導入する動きが始まりました。

コイルの形状や刺激条件を変えるなど、
rTMSの研究は既に次の段階に進んでいます

アメリカでは、既にrTMSがうつ病の治療法として承認を受けています。日本でも遅れること10年。ようやく保険収載の見通しとなりました。さしあたって対象となるのは、症状が中等症以上の患者さんのみですが、今後は症状が軽減された後の「維持療法」にも活用できるようにしたいと考えています。また、治療時間の短縮、機器の小型化や在宅療法などの医療ニーズも大きいです。

うつ病は、脳の働きという「体の要因」、思考の癖などの「心の要因」、仕事や生活環境、そこでの人間関係といった「社会的な要因」が複雑に絡み合って発症します。それ故に根本的な原因を突き止めにくく、多くの患者さんがなかなか寛解できずに苦しんできました。rTMSは、そうした方々の新たな選択肢になります。うつ病治療の未来は、確実に変わっていきますよ。


※2018年10月時点の情報です。

ひと言解説

診療、研究に奔走する鬼頭医師。
近い将来、うつ病以外の疾患 にもrTMSが適応となるかもしれません

うつ病治療だけじゃない。世界が注目する「rTMS」

rTMSが承認を受けているのは現在うつ病だけですが、脳卒中のリハビリや強迫性障害、依存症の治療など、世界中でさまざまな精神神経疾患に対して臨床研究が進められています。日本では、うつ病と同じ気分障害の一つである双極性障害において、鬼頭医師が中心となり、厚生労働省の定める「先進医療」(公的医療保険の対象にはなっていないが、有効性や安全性が一定の基準を満たしたもの)への申請も進んでいます。

精神神経科

准教授 鬼頭 伸輔

1999年、岩手医科大学医学部卒業。03年よりうつ病患者へのrTMS療法の研究を始める。09年、米ハーバード大学へ留学。国立精神・神経医療研究センター病院精神先進医療科医長などを経て、2017年より現職。

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